最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)814号 判決 1965年8月31日
上告人 土屋広司
被上告人 北海道知事 外一名
訴訟代理人 篠崎俊雄
主文
原判決を破棄する。
被上告人らの控訴を棄却する。
訴訟費用は原審、当審とも被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人石ヶ森泰蔵名義の上告理由第一点について。
本件農地は自作農創設特別措置法一六条の規定に基づき上告人に売り渡され、その対価も完納されたが、所有権移転登記手続は終つていなかつた。ところで、上告人が被上告人浅野誠二の耕作する国有地鳥取九七番畑五反歩を使用するにいたつたため両者の間に紛争が生じ、地元農地委員の斡旋で上告人の本件農地と右被上告人の耕作権とを交換する旨の契約が成立し、同契約の目的を実現する方便として、農地委員会が本件農地につき重ねて同被上告人に対し売渡計画をたてることとなり、それにつき上告人に異議がなかつたので、農地委員会は被上告人浅野に対して売渡計画を樹立し、被上告人知事も、上告人に対する売渡処分を取り消すことなく、農地委員会のたてた売渡計画に基づき、本件農地を重ねて被上告人浅野に対し売り渡し、同人のために保存登記がなされるにいたつた。原判決は、以上のような事実を認定したうえで、被上告人浅野に対する本件農地売渡処分は、上告人の意思に反するものでないから無効とはいえないと判断して、被上告人らの控訴を容れ、上告人の請求を棄却したこと、判文上明らかである。
しかしながら、自作農創設特別措置法の規定に基づく農地売渡処分は、自作農を創設して農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図る農地改革の一環として行なわれる公法上の処分であり、その売渡を受け得る者も当該農地について法定の資格要件を具備する者に限られているのであるから、一旦有資格者に売り渡された農地を他の農地等との交換の目的を実現させるために重ねて第三者に売り渡すがごときことは、たとえそれがさきに売渡を受けた者の意思に反しない場合においても、法律上許されないものといわなければならない。それ故、被上告人浅野に対する本件農地売渡処分は当然無効であるというべく、同被上告人は右無効の処分によつてした本件農地の所有権保存登記の抹消登記手続を、また、被上告人知事は上告人に対して本件農地の所有権移転登記手続をなすべき義務があること明らかである。
されば、論旨は、理由があり、原判決は、その余の上告理由について判断を加わえるまでもなく、すでにこの点において破棄を免れず、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 石坂修一 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 田中二郎)
上告理由書<省略>